リスク回避のための保険でリスクが増したらナンセンス
「当期は想定以上に利益がでそうだ。でも、税金は払いたくない!」
と節税目的で決算間際に多額の保険に加入する話をちらほら聞きます。
もちろん、先の見えない会社の未来のリスクに備えるために補償内容を吟味し、毎年の保険料の支払い、解約した際の返戻金の使い道まで資金繰りを考えて加入するのであれば有効かもしれません。
ただ、こと「節税」を目的にするのであれば、現在は、それほど魅力的な商品(保険)はありません。結局は返戻率が100%を超えることはほぼないですし、ましてや多額の保険料を支払うことが、毎期の資金繰りを圧迫しているようなら会社経営にとっては「悪」でしかありません。
それでも「節税」を目的とするのであれば、まずは、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)への加入をご検討されてはいかがでしょうか?
経営セーフティ共済は、そもそも「節税」が目的ではない
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、本来は、取引先が倒産して、売掛金の回収が困難になった場合に、中小企業の連鎖倒産を防止することが目的とし「無担保・無保証」で貸付が受けられる共済制度です。
具体的な貸付限度額は「回収困難となった売掛債権等の額」と「掛金総額の10倍に相当する額(最高8,000万円)」のいずれか少ない額と決まっていますので、例えば回収困難な売掛金が3,000万円、掛金総額が200万円の場合、2,000万円(200万円×10)が上限ということになります。
その他、取引先が倒産していなくても、資金が必要となった場合に、解約手当金の範囲内で貸付が受けられる「一時貸付金」という制度もあります。
加入要件と加入方法
加入要件は、引き続き1年以上事業を行なっていることのほか、業種によって資本金または従業員数で制限があります。ただし、条件がいちばん厳しい「小売業」でも、資本金等の額が5千万円以下、従業員数50人以下ですので、加入できる企業は結構多いはず。
実際、共済を運営している中小企業整備機構のパンフレットによると、現在約46万社が加入し、貸付累計件数は約27万件、貸付累計額は約1兆9千億円にものぼるとのことです。
加入については、中小機構と業務委託契約を締結している機関で会員(組合員)となっている委任団体(商工会、商工会議所など)や金融機関の本支店で加入手続きができます。
ただし、金融機関については、ゆうちょ銀行やインターネット専業銀行では手続きができませんので、ご注意ください。
●経営セーフティ共済HP
https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/index.html
経営セーフティ共済が節税対策として使われる理由
掛金は口座振替による振込みで、月額で5千円~20万円の範囲内(5千円単位)で自由に選択ができ、一度選択した後にも増額や減額は可能です(減額については一定の要件あり)。
そして経営セーフティ共済が節税対策として使えるといわれる所以は、振り込んだ掛金が、税金の計算上、全額費用になるためです。例えば毎月上限の20万円×12ヶ月掛金を振り込んでいれば、年間で240万円利益を圧縮することができます。
なお、納付した掛金については、納付月数が12月未満の場合は掛け捨てとなりますが、12月以上であれば自己都合による任意解約の場合「掛金総額×掛金納付月数による返戻率」により解約手当金が計算され、返戻率は12~23ヶ月で80%、40ヶ月以上であれば100%となります。
つまり、納付月数が40ヶ月以上になれば、いつでも納付した掛金総額がそっくりそのまま戻ってきますので、設備投資等で多額のお金が必要なときや、急激な売上の落ち込みで資金不足になりそうなときなど、自社の都合にあわせて、過去に支出したお金を有効に活用することができます。一方、節税目的の保険の場合、返戻率が高い期間が限定されていることが多いため、解約のタイミングを間違うと返戻率が落ちてしまいますし、返戻率が高いからといって利益がでている事業年度に解約すると、せっかくのお金が税金でもっていかれるはめになることもあるので、その点でも経営セーフティ共済は使い勝手は良いです。
「節税」を主目的とすると、年間の掛金限度額は240万円ですし、積立限度額が800万円のため、その効果は限定的ではあります。それでも掛金は全額費用になりますし、取引先の倒産等による緊急事態には貸付が受けられるため連鎖倒産のリスク回避対策にもなり、さらに解約時には一定の場合を除き掛金がそのまま戻ってくるなど活用の幅は広い制度ですので、内容のよく分からない保険に加入するくらいであれば、まずは経営セーフティ共済をご検討してみてください。